2016-03-02
香港 vs シンガポール アジアで起業するならどっち?
アジアのハブ都市と言えば、香港とシンガポールです。日本からは、飛行機で7時間かかるシンガポールよりも、4時間程で着く香港の方が馴染みあるかもしれません。1月末に香港政府主催の”StartmeupHK”に参加してきました。トップの写真はイーロン・マスク氏の講演の写真です。※香港出張の様子はWedgeさんに寄稿しておりますのでそちらをご覧ください。
そこで、今回の投稿では、我々がシンガポールをベースにしていることから、起業するならどちらが良いのか?という視点で、シンガポールと香港を比較したいと思います。
■住むなら香港が楽しい?基本データから比較
まずは、簡単にマクロデータの比較をしたいと思います。
言わずもがな、狭い国土の中に多くの方が住んでいるのは共通しています。人口密度が高いため、高層のマンションが立ち並ぶ姿はどちらでも見られます。不動産価格は現在の市況では香港がずっと高いらしいですが…汗。香港がほとんど漢民族が占めるのに対して、シンガポールの方がマレー系やインド系も多く、より多国籍な人が集まっていると言えます。経済指標に目を向けると、シンガポールの方がよりお金持ちであり、GDP成長率や失業率で見ても、シンガポールの方が一歩リードしている、といえます。
気候はどうでしょうか?シンガポールはトロピカルですので、常夏です。平坦な島に代わり映えの無い一年が過ぎます。一方で、香港は、四季があります。島全体が山になっていて、その斜面におしゃれな御店が立ち並びます。アメリカに例えると、香港はニューヨーク、シンガポールはサンフランシスコ、というところですかね。これだけ見ると、香港の方が住むには楽しそうだなあ…、と思ってしまうのは私だけでしょうか。
国民性という観点からはどうでしょうか?これは私見になってしまうんですが、全体的に、香港人の方が最先端の物が好き、アーリーアダプター層が多い、と感じています。現地の投資家の知人の情報によると、世界で最も高い売上高を誇るアップルは香港にあるそうで、確かに、ローカルの友人は、皆iPhoneを持っていました。セントラル(中環)にはテスラモーターズが普通にたくさん走っています。これは衝撃的でした(だから政府のイベントにイーロン・マスク氏が登場するのだと納得しました)。一方、シンガポール人はややマイペースというか、そんな気がします。多様性を認める国柄でしょうか、iPhoneも良ければSamsungも良し、みたいに、何か一つのものだけが先行して流行する、ということは起きにくいのかなと思います。
次に、スタートアップのエコシステムについて比較したいと思います。
■スタートアップのエコシステムではシンガポールが圧倒的に強い
スタートアップのエコシステムという意味では、香港はシンガポールに比べると大幅に遅れているなあ、という印象です。私が参加した1月末のイベントが、香港政府が初めて執ったスタートアップ関連のイニシアティブだそうです。ざっくりですが、下記、スタートアップのエコシステムについてシンガポールと香港を比較してみました。
政府の補助金という意味では、シンガポールは各省庁がそれぞれスタートアップ支援プログラムを提供しており、スライドではまとめきれないほど数多くあります。たとえば、SPRINGという日本でいうと経済産業省傘下のスタートアップ支援組織がありますが、こちらでは、ACE Startup Grantといって、主にテクノロジー重視の企業に支援金を出しています。また、National Research Foundationでは、Technology Incubation Schemeという投資家向けの補助金プログラムも提供しております。また、条件も比較的緩い場合が多く、「シンガポールに何かしらのメリットをもたらす」と評価されれば審査対象になる場合も多いです。一方、香港は、Technology Business Incubation Programなどスキーム自体は存在しているようですが、ニュースなどを見る限り、そこまで活発化していないように見受けられます。
創業期から最初の資金調達までを支えるシードアクセラレーターはどうでしょうか。香港では、政府主催のCyberportが有名です。それ以外にも、Nestなど西洋系のアクセラレーターが進出しています。が、数でいうと、シンガポールは圧倒的に凌駕しています。JFDIなどが有名ですが、フィンテックに特化したInspirAsia、メディアやアドテクに特化したSPH Plug and Playなど、さまざまです。One North駅のLaunch Padと言われるエリアでは、あちらこちらでプログラムが開催されております。まとめようと思いましたが、こちらも数が多すぎてまとめることができず笑。数十ページの資料になってしまうので、もし、現在起業家の皆さんがこちらをご覧になって頂いていて、アジア進出やアジアでの挑戦を考えられている場合は、是非弊社までご連絡いただければと思います。個別に対応させて頂きます!
逆にいうと、なぜ香港にはアーリーステージのVCが少ないのでしょうか?現地の投資家(レイターステージ)の友人曰く、元々香港は、外資が中国進出する際のGatewayとして見て拠点を置いていたが、現在は上海・北京の内側のシステムが育ったことから、拠点を直接そちらに置く傾向にある、ということでした。となると、香港の立ち位置が揺れている、ということでしょうか。一方で、シンガポールは、東南アジア、インド、オセアニアの拠点として置く投資家が多いです。
ただし、イベントでは、アジア最大級のRISEが香港で開催されています。やはり香港はエンタメの街なのでしょうか…。
これだけ比較すると、起業するならシンガポールの方が圧倒的にメリットが多い、というのはうなずけます。一方、中国進出を目指す場合は一つの選択肢としてありですが、北京や上海に入り込む方がずっとメリットがありそう、ということですね。香港は、スタートアップにおける対中国、対アジアという意味では立ち位置が不明確ですので、次の数十年でどういう方向を目指すのか、非常に楽しみです。
■スタートアップの領域は極めて似ている
先日訪問したStartmeupHKの中では、香港政府では、金融の中心地であることからまずはフィンテック、そしてヘルスケア、ビッグデータ、そしてIoTへの産業育成に注力している、と宣言していました。一方で、シンガポールはどうでしょうか。調査したところ、明確にこの領域を押し出す、ということはしていませんが、LaunchPadのオフィス利用基準はIT関連とバイオ関係のみ、ということなので、同領域を打ち出していると見ていいでしょう。
では、弊社の視点からはどうでしょうか?これまで出会ってきたスタートアップの領域で見ると、ターゲットやセグメントは極めて似ているなあ、と思います。一つは、富裕層向けサービス。シェフを家まで派遣する、何でもワンクリックで呼べるなどのコンシェルジェ系サービスや、プライベートジェットのUBERモデルなど、いかにもお金持ちを相手にしたサービスが両国発で多い気がします。次に、プロフェッショナルサービス系のビジネスが目立ちます。法律や会計のクラウドソフトウェア、人事部門や総務部門の業務効率を目指したSaaSなど、拠点を持つ大企業をターゲットにしたサービスが目立ちます。また、教育系が両国で熱いように思います。各スタートアップ、ゲームやらPeer to Peerやら、あの手この手で香港とシンガポールの教育熱心な親をターゲットにしたサービスを展開しています。
国際ハブ都市らしいスタートアップもあり。弊社の投資先でもあるEasyShipは、香港をベースにした越境ECを前提にしたロジプレイヤーのマーケットプレイス。シンガポールでは、お土産代行サービスのAirfrovなどが人気を出しつつある。ヒト・モノ・カネの出はいりが激しいシンガポール・香港ならではのサービスです。
もちろん、香港ベースにしろ、シンガポールベースにしろ、それぞれが次のターゲットとしてそれぞれを目指しているため、競争は激化していくことが今後予想されます。現状はシンガポールが有利な状況ですが、今後数年先はどうでしょうか。また、別の角度から見ると香港の良さもあるのかもしれません。引き続きウォッチし、有益な情報は積極的に発信していきます!