2016-07-12

ミャンマーのスタートアップは今

シンガポール本社の宮崎です。

本日、Wedgeさんで連載させて頂いているASEANスタートアップ最前線に、先日訪問したミャンマーのスタートアップ状況について報告させて頂きました。下記、記事を転載させて頂きます。

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ミャンマーのスタートアップは今 ~東南アジア最後のフロンティア~

2015年11月、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟が、先の総選挙で与党の連邦団結発展党を圧倒した。ミャンマーに、遂に自由民主主義と法の支配が訪れる、と、世界中が歓喜した。それに応じるかのように、ミャンマーのスタートアップからの問い合わせが今年に入って増加した。各所で実施されるスタートアップ関連イベントでも、ミャンマー発の企業に出会う機会も増えたと実感していた。

 そのような中で、遂に、私はミャンマーの旧首都であるヤンゴンを訪れる機会があった。東南アジア最後のフロンティアと言われるミャンマー。そのミャンマーで活躍する現地のアクセラレーターやスタートアップを数社訪問した。今回の記事では、ミャンマーのテックシーンについてご紹介したい。

複雑な事情を持つミャンマー ITインフラはここ数年で急速に発展!

まずは、ミャンマーの国の概観について紹介したい。東はタイ、西はバングラディッシュ、北は中国に挟まれた、5000万人を超える人口を抱える、東南アジアでは比較的大きな国だ。マジョリティーはビルマ族だが、地方には首長族でカヤン族など、多数の少数民族も内包している。

仏教国だが、バングラディッシュの国境付近ではムスリムとの対立はしばしば起こっており、ロヒンギャの迫害などが最近では報道されている。戦後、軍事政権が長らく政権を握っていたが、2011年に新政府に権限が委譲、課題は残るものの民主化が一気に進んだ。このように、民族・宗教・政治、複雑な歴史を歩み続けたミャンマー。一人当たりGDPは 1000ドルを下回り、未だに農業が産業の中心だ。工業化・近代化はまだまだこれからと言って良い段階だ。

教科書的なデータはここまでに、まずは空港に着いた時の印象からお話したい。皆ロンジー(スカートのような民族衣装)を履き、女性はタナカで頬に化粧をしている。お坊さんや尼さんの格好をした方も多い。まさに異国そのもの。自分の好奇心を駆り立てる。空港を出でタクシーにてヤンゴンの中心部を目指すが、全て交渉制だ。ここにはUBERもなければGRABも無い。結局、価格を値下げしてもらう代わりに、同じ便でシンガポールから来たミャンマー人の彼と一緒にシェアしながらダウンタウンを目指すことにした。

タクシーに乗り込む前、KDDIと住友商事が支援している国営ミャンマー郵電公社(通称MPT)でSIMカードを購入。インドネシアのジャカルタでは、回線が不安定でインターネットがスムーズに使えないことも多かったが、ヤンゴンでは、快適にインターネットを使えた。少なくとも都市部ではITインフラが浸透しているのだと実感。一緒にライドシェアをした現地の子に聞くと、数年前まではインターネットはほぼ無しに等しかった。が、ここ2年でITインフラが一気に改善し、インターネット利用率が爆発的に増えたという。

爆速で進むスマートフォンの浸透率 注目領域は不動産と車!

初日は、現地のスタートアップの友人に、半ば観光、半ば市場調査ということで、現地を案内してもらった。案内人は、現地でバスのチケット予約サービスを展開するStarTicketのファウンダー、Thet氏。弟と二人で起業した彼らは、昨年、スタートアップの賞という賞を総なめにしている。ASEANのRiceBowlや、経済産業省がヤンゴンで実施したビジネスコンピティションで優勝、先日はForbesAsiaのUnder30 ベストアントレプレナーに選ばれシンガポールに呼ばれていた。

そんな彼女は、まずはヤンゴン一有名な観光名所であるシュエダゴン・パゴダに連れていってくれた。この日は休日だったため、地元の人が皆お参りに訪れていたが、びっくりしたことは、スマフォの普及率の高さだ。すれ違う人ほとんどが携帯を持ち、その多くがスマートフォンであった。

中国のOPPOを中心に、ここ2-3年で急激にスマフォの普及率が増えたということである。ヤンゴンで良く見る、お坊さん、尼さん、道端でストリートフードを売る人みんながスマフォを持っている。確かに、最近のニュースでは、スマートフォンの普及率が50%近くに達した、という報道もある。

次に、彼女はビジネスの中心地であるSakura Towerに連れていってくれた。景色を見ながら語ってくれたことは、不動産の需給が現在異常にアンバランスだということだ。SakuraTowerから見下ろす景色は、ヤンゴンの中心地とはいえ、10階以上の建物は珍しい。大型のショッピングモールもあるが、数は極めて少ない。一方で、ここ数年、外国人の流入が増えているため、都市のオフィスや駐在員向け物件が異様に高騰している、ということだった。実際、その後訪問している企業は、家賃が昨年からいきなり2倍になったということで、固定費を抑えるために別の場所に移った、という会社もあるくらいだった。建設ラッシュは徐々に始まっているようで、不動産の建築ラッシュが今後数年で起こることだろう。そのため、不動産サイトのトラフィックが伸びているという。

日本の中古車 特にトヨタが人気

さらに、彼女は車の事情についても教えてくれた。ここでは日本の中古車、特にトヨタが人気だということで、100万円くらいで購入したと言っていた。私の感覚だと、日本ではその半額くらいで売られているモデルだが……、自動車関連に詳しいコンサルタントの方からの話によると、ミャンマーでは関税が高く、日本の売価の約2倍で販売されているということだ。まだ新車は高すぎて全く手に負えない中で、中古車も非常に高く感じるが、実態はそのようである。特に都市部に住む中間所得層にとっては、車は生活の必需品だ。ミャンマーには、年間で約15万台近くの日本の中古車が販売され、国内全体で100万台が走っているらしい。人口に占める割合は少ないものの、今後も台数は増える見込みだ。

このように、ここ数年で、経済全体が盛り上がる中で、スマフォの普及、不動産の高騰と建設ラッシュのスタート、そして自動車販売台数の増加。この3つが今現在のヤンゴンを表すキーワードと言って良いだろう。

現地のエコシステムもスタートアップもまだまだ始まったばかり

無論、スタートアップのエコシステムもまだまだ発展途上だ。とはいえ、スタートアップのGatewayとなるシードアクセラレーターは既に存在していた。今回の旅では、ヤンゴン唯一のシードアクセラレーター・Phandeeyarを訪問した。2014年にオーストラリア人のDave氏が創設してまた今年で2年目ということである。主催者の一人のJes(彼はデンマーク人)に会って話を詳しく聞いたが、スタートアップの数も徐々に増えているという。ここの施設に籍を置いているスタートアップは、ローカルが多いが海外からチャレンジする起業家も一定数いるということだ。投資家の訪問数も今年に入ってから増えているということだ。アジアからの訪問が多いのかと聞いたところ、欧米からも同じくらい多いという。どの国も、アジア最後のフロンティアから目を離さないわけがない。

では、起業家はどんな経歴の方が多いのだろうか。今回の滞在で、複数の起業家と会ったが、海外で成功してから戻ってきている、少しシニアな方(30代後半以上)が多かった。生まれはミャンマーだが、育ちはシンガポールやオーストラリア、そのまま就職して自分でIT関連のビジネスを立ち上げ成功してから戻るパターンが多かった。とある起業家は、オーストラリアで自分のビジネスを展開していた。毎年ミャンマーに里帰りをしていたが、2年前と1年前、その1年間の変化が、過去のどの時点よりも(特にIT領域で)急速に発展していたことを感じ、今がチャンス!と、ミャンマーに戻ることを決意し、現在は複数のウェブサイトを起ち上げている。

Phandeeyarや現地のスタートアップの友人に紹介してもらいながら、ローカル出身のファウンダーにも会ったが、主観的な意見になってしまうが、彼らが成功するためには3つの壁があると感じた。

一つ目は英語の壁。やはり、ローカル出身だと、英語力が劣り、海外の資本家とのコミュニケーションが円滑にできないという点がある。もちろん、ローカルの資本家から事業資金を得て拡大できる可能性も十分にあるだろうが、言語能力がネックに調達先が限られてしまうことは決して良くない。

二つ目は、資本主義の壁。株式会社がどういうものか、財務会計や企業価値の考え方、こういった基本的な知識が、今や他の国では当たり前のような基礎知識として普及しているが、ローカルの若手ファウンダーは、他のASEAN諸国の若手ファウンダーと比べると前提の知識量が劣っているように会話から感じた。

最後の3つ目は、強欲の壁だ。ASEAN各国のファウンダーは、鼻息荒く、Greedyに、成功したい!お金もちになりたい!がごとく、アグレッシブに事業を進めるが、逆にミャンマーの起業家陣は、総じて落ち着いた印象を受けた。仏教国の国民性がそうさせているのであろうか。日本人の心持ちと近いところがあり、非常に接しやすいものの、時にはオラオラ系のノリで事業を引っ張っていってほしい。残念ながら、そこまでカリスマ性のあるローカルのファウンダーには今回の旅で出会うことはできなかった。

このように、ミャンマーのテック系スタートアップシーンはまだ産声を上げたばかりである。勤勉な国民性も日本人と似ているため、個人的には、日本人と相性が良いのではないかと感じている。事実、様々なセクターで日系企業が進出しているようで、ミャンマー市場からは目が離せない!

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記事には書きませんでしたが、感動したエピソードを一つ加筆したいと思います。

ホテルで一人食事をしていた時のこと。ある男性ウェイターが、やたらホスピタリティ高く、積極的に話しかけてくれました。それも何ともまあキレイな英語で。自分の方から「色々と気配りしてくれてありがとう。英語はどこで学んだの?」と聞いたら、独学、とのこと。最初は見様見真似で、他の御客さんと実践的に会話して、自分でも数年努力したとのこと。ああ、これが、良く言われるミャンマー人の勤勉さかあ…と感心しました。もしかしたら、彼のような人はレアなのかもしれないけれど、主体的に、向上心高く取り組む精神がミャンマーに根付いているのであれば、この国の未来も明るいのではないでしょうか。

 

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